はじめに
タイトルにもある通り、このたび株式会社ソニックガーデンで働くことになりました。
Rubyやアジャイル開発に興味がある方なら、きっとみなさんソニックガーデンのことをご存知なのではないでしょうか。
代表取締役社長の倉貫さんをはじめ、選りすぐりの精鋭部隊が今回僕を迎え入れてくれたことは非常に光栄です。
会社のため、お客様のため、プログラマを憧れの職業にするため、日本のIT業界発展のために精一杯頑張ります!
どうやって働くの?
一部の方はご存知かもしれませんが、僕は現在兵庫県西脇市に在住しています。
ソニックガーデンのオフィスは東京の渋谷にあります。
なので僕はこれから単身赴任・・・ではなく、地元西脇市からリモートで開発を行います。
わかりやすく言うと、在宅勤務です!
もっとも、最初の3ヶ月ぐらいは研修期間として東京で働きます。
余裕があれば東京の勉強会等に顔を出すかもしれません。その際はよろしくお願いします。
ソニックガーデンにおいて、リモートで働くのは僕が初めてではなく、現在アイルランドからリモートで働いているメンバー(前田さん)がいます。
ただ、前田さんと状況が全く同じというわけでもないので、最適なリモートでの働き方はこれから一緒に試行錯誤していくことになると思います。
「これからリモートで働く(在宅勤務になる)」と言うと、ほとんどの人が驚きます。
確かに、社員の給料を社員の拘束時間で決めているような会社ではまず無理でしょう。
こんな働き方ができる会社は日本では非常に珍しく、ソニックガーデンならではだなと思います。
応募から入社に至るまでの経緯
リモートで働けるというのも珍しいですが、ソニックガーデンの選考プロセスもまた非常に珍しいです。
いや、珍しいという表現は良くないですね。非常に素晴らしいです。
書籍「ピープルウェア」には「お手玉をさせずに、面接だけでお手玉の曲芸師を雇うのか」という話が載っています。
ソニックガーデンの入社選考では、たっぷり時間をかけて僕の「お手玉」を見てもらいました。
また、メンバーの皆さんと一緒に「お手玉」をすることもありました。
そんな経緯をちょっと紹介してみたいと思います。
2011年8月以前 -倉貫さんのブログってどれも面白いなあ-
ソニックガーデンを知ったのはかれこれ1年以上前です。
もともとRubyやアジャイル開発に興味があった僕はTwitterのTLなんかでよく流れてくる倉貫さんのブログを興味深く読んでいました。
ブログを読みながら、「うん、なるほど!確かに!面白い!」といった感想を抱いていたのを覚えています。
当時は「こんな会社で働いたら面白そうだよな〜」というぐらいの気持ちでした。
2011年9月 -衝撃的なエントリとの出会い-
そんな中でも9月26日に公開された「オフェンシブな開発〜「納品しない受託開発」にみるソフトウェア受託開発の未来」というエントリがとりわけ衝撃的でした。
このエントリを読んで「こういったスタイルが日本で主流になってほしいし、僕もそうなるようにお手伝いできれば」と感じました。
しかし、このエントリが公開された時点ではまだ、ソニックガーデンはTISの社内カンパニーという位置づけだったため、ソニックガーデンに狙いを絞って入社の応募をするということは無理そうでした。
2011年10月 -履歴書を送付-
ところが、9月末になってソニックガーデンがTISから独立したというニュースを目にしました。
しかも採用情報のページを見ると、「在宅勤務も可能」と書いてあるじゃないですか!
「これは!!!」と思い、速攻で履歴書を送付しました。
しかし、この時点では「僕なんかじゃさすがに無理だろうなあ。ダメで元々やわ」という心細い気持ちでいました。
2011年11月 -最初の面談-
11月の初めに倉貫さんが大阪へ出張に来られたので、そこで初めて倉貫さん本人にお会いしました。
門前払いも覚悟で面談に望んだのですが、そんなことはありませんでした。
当時は社外で公開しているプログラムは全く持っていなかったのですが、今思うとこのブログを書いていたのが門前払いを回避できた理由のひとつだったのかもしれません。
お互いの紹介と質疑応答を終えた後、とりあえず「伊藤さんの実力がわかる『作品』をRubyで作ってください」という宿題を出されてこの日の面談は終わりました。
2011年12月 -まずはRailsの勉強から-
倉貫さんと相談した結果、「StackOverflowのクローンを作る」というのが「作品作り」の課題になりました。
しかし、この頃は妻のパン屋の開店準備等で忙しく、「作品作り」に取り組む時間がなかなか確保できませんでした。
そんな中、空いた時間を見つけてRails本を読んだり、Rails Tutorialで勉強したりしました。
音信不通の期間を作ってしまうと何もやっていないように思われかねないので、特に進捗がなくても必ず週に一回は倉貫さんに連絡を入れるようにしていました。
2012年1月 -「作品作り」が一応完了-
1月になってようやく本格的に「作品作り」に取り組めるようになりました。
が、Railsの開発でハマるハマる・・・。
StackOverflow自体もクローンを作ろうと思うとかなり大変な仕様でした。
結局、必要最小限の機能(いわゆるMVP)だけを実装した「ちっちゃなStackOverflow」が1月末にほぼできあがりました。
2012年2月 -転職サイトに見切りをつけて、東京オフィスへ電撃訪問-
実は当時、リクナビのような転職サイトにも登録していました。
もちろん第一希望はソニックガーデンだったのですが、他にも可能性や選択肢を検討したかったためです。
しかし、送られてくるスカウトメールを見ても「うーん、これじゃあな〜」と思うような会社ばかりでした。
ソニックガーデンのように「プログラマを一生の仕事」にできるような会社は皆無でした。
その中で一社だけ、「ちょっとは面白そうかな(=技術指向かな)」と思える会社が近くにあったので、試しに面接を受けてみることにしました。
が、会社を訪れてみるとやっぱり普通の「残念なSIer」でした。(面接を受ける前はSIerっぽくは見えなかったのですが)
選考プロセスは面接のみだし、僕が書いてるブログ等にも全然興味がなさそうだったので、「やっぱ、こりゃあかん」となりました。
僕が思うに「お手玉をさせずにお手玉の曲芸師を雇う会社」の技術力はきっと底が知れてると思います。
うまくいって「玉石混淆」というレベルなんじゃないでしょうか。
というわけで、この件を機に転職サイトのスカウトメールは完全に見限りました。
そして「何が何でもソニックガーデンに入ってやる!!」というスイッチが入りました。
それまでずっと倉貫さんとしかやりとりしていなかったので、「そろそろSkypeで伊藤さんをメンバーに紹介して、次の選考ステップに移りましょうか」という話がその頃上がっていました。
しかし、「残念なSIer」の面接を受けた翌日に「Skypeは結構です!僕が東京に行きます!!」と伝えて、日帰りで東京のオフィスを訪問するアポを取付けました。
「残念なSIer」での面接の経験から、「Webサイトではその会社の本当の姿は見えない。実際に足を運んで自分の目で確かめないとわからない」と確信したからです。
東京のオフィスでは堅苦しい面接ではなく、「バーチャル職場体験」というコンセプトで接してもらいました。
実際足を運んでみて、倉貫さん以外のメンバーとも初めてお会いしましたが、みなさんは本当に仲が良さそうでしたし、突然お邪魔した僕にも大変フレンドリーに接してくれました。
また、CTOの松村さんに「作品」のコードレビューをしてもらったのですが、色々と指摘を受けながら「この人、天才肌やわー」という感想を持ちました。
まったく、「残念なSIer」での面接とは大違いです。
そういえばコードレビューの時に、「コードは結構きれい」と言われたのがうれしかったですね。
プログラムを書くのは仕事で書くものが大半で、それまで社外の人にコードを評価してもらう機会はほとんどなかったので、すごく新鮮な感じがしました。
2012年3月 -お互いが納得できるかどうかを見極める-
この「バーチャル職場体験」以降はyouRoomやPivotal Trackerといったツールを使って、他のメンバーさんとも情報共有しながら選考を進めることになりました。
まさに倉貫さんが書かれた「高速で無駄のないソフトウェア開発を実現するための7つのポイント」で紹介されているそのままの開発スタイルです。
次の選考ステップは「現在開発中のWebサービスにいくつか機能を追加する」という課題が出されました。
しかし、一人で黙々と開発するのではなく、ソニックガーデンのメンバーのレビューやサポートを受けながらの開発になりました。
つまり、このステップでは技術力だけではなく、「メンバーとうまくコラボレートできるか」といった点も確認するためのステップでした。
倉貫さんは何度も僕に
「会社が伊藤さんを評価するだけではなく、伊藤さんも会社を評価してください」
「お互いが本当に納得できる場合にだけ一緒に働きましょう。もし伊藤さんの中でもしっくりこないところが出てきたら、断ってきてください」
といった話をされていました。
3月から4月にかけてはまさに「ソニックガーデンが僕を選考する」フェーズでもあり、「僕がソニックガーデンの開発スタイルを選考する」フェーズでもあったと言えます。
短期間で入社が決まっても「僕: 入ってみたけど何か違った」「会社: 入れてみたけどこんな奴だと思わなかった」という結末になってしまうのは確かにお互い不幸です。
そう言えば、この頃からはそれまで「優しいだけ」だった倉貫さんからちょっと厳しめの指摘が入ったりすることもありました。
これはより真剣に向きあってくれている裏返しだったんじゃないかと思います。
2012年4月 -ようやく内定をゲット!-
僕の前に入った西見さんも半年ぐらいかけて入社したという話を聞いていたので、選考が長丁場になることは予想していたのですが、僕の場合も本当にかれこれ半年ぐらい経過していました。
しかし、このままいつ終わるか分からない選考が続くのも大変なので、4月中に結論を出してもらうことにしました。
おそらく僕からは見えない課題や制約もたくさんあったと思いますが、検討の結果、なんとかメンバーのみなさんから「入社OK」との返事をいただくことができました。
やったー!!
こうして僕は何とかして憧れのソニックガーデン入社を実現させることができました。
みなさん、どうもありがとうございました!
前職の社内SEの業務と並行しながらの「作品作り」や「Webサービス改造」は大変でしたが、その時間が作れるように協力してくれた妻や子どもたちにも感謝したいと思います。
2012年5月 -退職に向けたあれこれ-
5月中は退職に向けた業務引き継ぎや、進行中だった開発プロジェクトの完遂に注力していました。
前職のメンバーの協力もあって、全て無事に終わらせることができました。ありがとうございました。
ソニックガーデン流 選考プロセスの感想
上の選考プロセスは特に決められたものではなく、あくまで僕個人のために調整されたプロセスだと思います。
というか、ソニックガーデンは何かを文書化してかっちり守るというよりも、その時々で最適なやり方をそれこそ「アジャイルに」実践していく会社です。
なので、違う人が選考に応募したら、またその人に合わせた選考プロセスが生まれていくはずです。
それにしても時間はかかりましたが、これだけじっくりお互いを理解した上で入社できたのは本当に幸せなことだと思います。
繰り返しになりますが、「お手玉なしで曲芸師を雇う」のはやっぱり変です。
コードも見ずに面接だけで技術者を採用しようとする転職サイトの登録企業が不思議でなりませんでした。
また、応募者が「こんな職場だとは思わなかった」と後悔しないためにも、「職場体験」や「インターン」といった機会を交えた選考スタイルがもっと増えていってくれればと思います。
それから「プログラマを一生の仕事」にしたいのなら、ブログを書いたり、自分のコードを公開したりすることは絶対必須ですね。
僕はなんとかブログを書いていたので、まだ食い下がることができましたが、もし「ブログも書いてない」「コードも公開していない」状態だったら、たぶん門前払いになっていたと思います。
「お前は何者だ?」「何ができるんだ?」「どれくらいのスキルなんだ?」という問いに対して、履歴書一枚で答えられるわけがありません。
もしあなたが応募した会社が履歴書と面接だけで満足したなら、その会社はプログラマを一生の仕事にできない会社だと思ってよいでしょう。
また、ソニックガーデンでは技術力だけでなく、プログラマのパーソナリティも重視しています。
技術力だけが異様に高くても、他のメンバーと楽しく働けない人は厳しいかもしれません。
最後に
さてさて、僕も入社しただけで満足していては意味がありません。
ここからが本当のスタートなので、会社のため、お客様のため、プログラマを憧れの職業にするため、日本のIT業界発展のために精一杯頑張ります!
内側から見たソニックガーデンや在宅勤務の感想等についても今後このブログで報告していくつもりなので、興味がある方は時々チェックしてみてください。
2012.06.22 追記
そういえばソニックガーデンへの転職を希望する前、2011年の8月頃に大手企業の社内SE(プログラマ)職に応募して書類選考で落とされたのを思い出しました。
今思うと、落とされて良かったですね〜。これがいわゆる「縁」ってやつかもしれません。
あわせて読みたい
「わたしがプログラマという職業を選んだ理由」 - give IT a try
プログラマ人生・社内SE編が完結しました - give IT a try
都会を離れて田舎暮らしを選んだプログラマから見た、都会と田舎の生活の違い - give IT a try
ソニックガーデン入社以前のエピソードについてはこのあたりのエントリに書いています。
参考書籍
「お手玉の曲芸師」のエピソードはこの本に載っています。
- 作者: トム・デマルコ,ティモシー・リスター,松原友夫,山浦恒央
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2001/11/26
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ソニックガーデンの推薦図書
選考の過程で登場したソニックガーデンの推薦図書を紹介しておきます。ソニックガーデン入社試験対策にどうぞ(笑)
- 作者: エリック・リース,伊藤穣一(MITメディアラボ所長),井口耕二
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