はじめに
個人的な感覚ですが、最近のニュースを見ていたりすると、なんとなく「日本人のあまり良くない側面が、物事を悪い方向に引っ張ってるんじゃないか」と感じることが多くなりました。
その「日本人のあまり良くない側面」が災いして大失敗したのが、70年前の戦争です。
そして、この「失敗」を社会科学的に分析してまとめた本が、有名な「失敗の本質」という書籍です。
以前から読んでみたいなと思っていたので、これを機に購入して読んでみました。
読んでみると「あー、これは今でも同じだわー」と思う部分がたくさんあり、非常に興味深い内容でした。
前から気になってた「失敗の本質」をKindle版で買ってみた。敗因の分析を読んで「バカだなあ」と思うところもある一方、「げっ、自分にも当てはまりそう」と思うところもあったりして、いろいろ興味深い。https://t.co/GVAilrT5yB pic.twitter.com/NOaGkz1n12
— Junichi Ito (伊藤淳一) (@jnchito) 2018年5月1日
というわけで、このエントリでは「失敗の本質」を読んで、「これは今の時代でも当てはまりそう」「意識的しないと、自分も流されてしまいそう」と思った部分をあれこれピックアップしてみます。
本書の構成
本書は3つの章に分かれています。
- 1章 失敗の事例研究
- 2章 失敗の本質ーー戦略・組織における日本軍の失敗の分析
- 3章 失敗の教訓ーー日本軍の失敗の本質と今日的課題
1章はノモンハン事件やミッドウェー海戦など、戦争中に起きた具体的な事例(日本軍が負けた戦闘)を解説した章です。
2章は1章で説明した各戦闘を総合的に分析し、日本軍の組織的特性や欠陥を議論しています。
3章は2章の分析をもとに、現代の組織に適用可能な教訓や課題を提示しています。
個人的に、この本のメインは2章ではないかと思います。
1章では個々の戦闘の具体例が記述されていますが、正直、文章だけだと何がどうなったのか細かいディティールを頭の中に思い描くのはちょっと難しいように思いました。
1章で細かい部分を把握できなくても、2章で1章の内容が総合的に分析されるので、1章はざっくりと読み進め、2章以降をしっかり読めば、それで大丈夫な気がします。
3章は2章における議論と内容がかなり重複します。
なので、結局のところ、読み物として一番面白いのは2章ではないかと思います。
個人的に興味深かったポイント
「失敗の本質」を読んでみて、個人的に興味深かったポイントを以下に挙げていきます。
僕にとっての「興味深いポイント」とは、「それって今の社会や、自分の身の周りでも同じやん!」とか「やばい、僕自身もそんな傾向があるかも?」と思った内容です。
戦略上の失敗要因分析(2章)
- あいまいな戦略目的 p268
- 戦争の開始と終結の目標があいまいだった
- 短期決戦の戦略思考 p277
- 日米開戦後の確たる長期的展望がないままに、戦争に突入した
- 主観的で「帰納的」な戦略策定ー空気の支配 p282
- 米軍は演繹的、日本軍は帰納的
- 演繹的 = 既知の一般法則によって個別の問題を解く
- 帰納的 = 経験した事実のなかからある一般的な法則性を見つける
- 日本軍の戦略策定は情緒や空気が支配する傾向が強かった
- あらゆる議論は最後に空気によって決定される
- 個々の戦闘における「戦機まさに熟せり」、「決死任務を遂行し、聖旨に添うべし」、「天佑神助」、「神明の加護」、「能否を超越し国運を賭して断行すべし」などの抽象的かつ空文虚字の作文には、それらの言葉を具体的方法にまで詰めるという方法論がまったく見られない
- 狭くて進化のない戦略オプション p289
- 戦略発想が硬直的
- アンバランスな戦闘技術体系 p297
- ある部分は突出してすぐれているが他の部分は絶望的に立ち後れている
- 一点豪華主義。典型例は大和と零戦
- 零戦は入手と加工が困難な超々ジュラルミンを使用したため、大量生産できなかった
- 米軍のグラマンF6F「ヘルキャット」は徹底した標準化による大量生産が行われた
- 米国は平均的軍人の操作が容易な武器体系だった
- 日本は一点豪華で、その操作に名人芸を要求した
- 日本軍の技術体系では、ハードウェアに対してソフトウェア(暗号解読技術やレーダーなど)の開発が弱体であった
組織上の失敗要因分析(2章)
- 人的ネットワーク偏重の組織構造 p308
- 根回しと腹のすり合せによる意思決定
- 組織目標と目標達成手段の合理的、体系的な形成・選択よりも、組織メンバー間の「間柄」に対する配慮を重視
- 属人的な組織の統合 p318
- 陸海軍の間には、戦略思想の相違、機構上の分立、組織の思考・行動様式の違いなどの根本的な対立が存在し、その一致は容易に達成できなかった
- 学習を軽視した組織 p325
- 敵戦力を過小評価し、自己の戦力を過大評価する精神主義
- 同一パターンの作戦を繰り返して敗北する
- 対人関係、人的ネットワーク関係に対する配慮が優先し、失敗の経験から積極的に学びとろうとする姿勢が欠如していた
- 軍の教育機関では教官や各種の操典が指示するところを半ば機械的に暗記し、それを忠実に再現することが、最も評価され、奨励されさえした。いわば「模範解答」が用意され、その解答への近さが評価基準となっていた
- プロセスや動機を重視した評価 p333
- 日本軍は結果よりもプロセスを評価した。個々の戦闘においても、戦闘結果よりはリーダーの意図とか、やる気が評価された
- 論理よりも声の大きな者の突出を許容した
自己革新組織の原則と日本軍の失敗(3章)
- 創造的破壊による突出 p382
- 組織の行為と成果との間にギャップがあった場合には、既存の知識を疑い、新たな知識を獲得しなければならない。そのためには既存の知識を捨てる学習棄却(unlearning)、つまり自己否定的学習ができるかどうかポイントになるが、帝国陸海軍は既存の知識を強化しすぎて、学習棄却に失敗した
- 日本軍はある意味において、たえず自己超越を強いた組織であったが、往々にして、その自己超越は、合理性を超えた精神主義に求められた。そのような精神主義的極限追求は、そもそも初めからできないことがわかっていたものであって、創造的破壊につながるようなものではなかった
- 米軍は戦争の間にテニスをする余裕があったが、日本軍には、悲壮感が強く余裕や遊びの精神がなかった
感想
興味深かったポイントをあれこれ挙げてきましたが、もっと抽象的に、「今でもそうなんじゃない?」と思える要素を抜き出すとこんな感じになるんじゃないかと思います。
- 言っていることが抽象的な話ばかりで具体性がない
- 個別最適の追求は得意だが、全体最適を進めるのは苦手
- ソフトウェアよりハードウェアを偏重する
- 人間関係や場の空気が尊重されて、合理的な意思決定ができない
- 一度うまくいったパターンをやみくもに繰り返す
- 勉強は暗記中心で、現場や社会に出たときの柔軟性や応用力に欠ける
- 結果よりもやる気が評価される
- 声の大きい人の意見が通る
- 非合理的な精神主義で、現場が無茶を強いられる
- 余裕や遊びの精神がない
どうでしょう?日本で生まれ育ってきた人であれば、みんな「あー、あるある!」と苦笑いしてしまうポイントばかりなのではないでしょうか。
分かってるなら直せばいいのに、と思ったりもしますが、何十年経っても変わらないのは、こうした考えや振る舞いが、もはや「日本人の文化」として社会に染みついてしまっているからなのかもしれません。
個人的にグサッと刺さったのは、「新たな知識を獲得するために、既存の知識を捨てる学習棄却(unlearning)ができるかどうか」という部分です(p369)。
うまくいっている期間が続くと守りに入ってしまうというか、「今の知識を捨てて新しい知識を取り入れる」という行動が取りにくくなってしまう気がします。
「失敗の本質」を読んで、僕自身も昔に比べると、そういう傾向が出てきてるんじゃないか?と少し怖くなりました。
なので、折に触れて本書を読み直し、意識的に自分自身を変化させていく必要があると思いました。
余談:紙の本のカバーについて
この本、最初はKindle版を購入したのですが、「これは何度も読み返したい」と思って紙の本も購入しました。
ペラペラペラーッとページをめくりながら内容を確認していく用途だと、やっぱり紙の本が向いてるんですよね。
ちなみに紙の本はAmazonに載ってる表紙と全然デザインが違うのですが、実はカバーが二重構造になっていて、Amazonに載ってる表紙は下側に隠れています。
こんな構造の表紙を見るのは初めてです。
本屋さんで買おうとすると、「あれ、もしかして違う本?」と勘違いするかもしれないので注意が必要です。