はじめに
先日、TwitterでIT勉強会や懇親会に関するこちらのツイートを拝見しました。
↓勉強会に参加したい
— Shoko Sato 🐶 (@satoshoco) January 11, 2020
・レベルについていけないかも🤯
・違う目的で参加している人居たら嫌だな(そもそも出会い目的じゃ無いし)
・内輪感あり過ぎてて溶け込めない雰囲気じゃないかな🤔
・懇親会はコミュ力最大限に使うし目的違うのでいらない
↓不安の結果
やっぱり自宅で勉強しよ😇
※繰り返し
勉強会数えきれないくらい行ってるけど人見知りなので未だに懇親会苦手感ある(とっても楽しいのだけど)
— makicamel (@makicamel) January 13, 2020
懇親会でTokyoGirls.rbのぼっち対策が行われた会を数件見ていて、この活動広まるといいなあ…と思ってる。 https://t.co/40b4y52I3I
いやあ、勉強会や懇親会ってなかなかハードルが高いですよね。
僕も初めて勉強会に参加したときはとてもドキドキしましたし、懇親会で初対面の人とワイワイ話したりするのはいまだに苦手なのでよくわかります😅
それだけに、自分が勉強会を主催するときは、なるべく参加者のみなさんの心理的ハードルを下げたり、懇親会でひとりぼっちの人が出てきたりしないように、いろいろサポートしてあげたいなーと思っています。
ちなみに、上で紹介した2つめのツイートに出てくる「TokyoGirls.rb」は僕が主催者の一人としてかかわったイベント(Ruby勉強会)です。
TokyoGirls.rbでは「ぼっち対策」をはじめ、参加者のみなさんが最初から最後まで楽しめるように、いろんな施策や工夫を実践してみました。
前回書いたエントリと多少重複するところも出てきますが、今回は安心して参加できる勉強会や懇親会のために主催者がどういうことをすればいいのか、僕がTokyoGirls.rbで実際にやった工夫を紹介していきます。
また、記事の最後にTokyoGirls.rbで実際に使用したスライドをCC BYライセンスで公開しています。
この記事で紹介した施策をご自身のイベントでも取り入れてみたい、という方はこちらもぜひご活用ください!
【もくじ】
イベントページで
勉強会やカンファレンスのコンセプトや対象レベルを明確にする
イベントページで「いったいどんな勉強会で、何が学べるのか(何を学びたい人が集まるのか)」「初心者プログラマや初参加の人でも気軽に参加してよいのかどうか」を明文化しておきましょう。
主催する人は「そんなもんイベントページを眺めたらだいたいわかるやんけ」とか「勉強会なんて誰でも自由に参加できるに決まってるやろ」と思うかもしれません。
ですが、初心者さんや今まで勉強会に行ったことがない人の心理的ハードルは思った以上に高いです。
そのため、「初心者さんや初参加の人も大歓迎ですよ」と明文化しておくことは重要です。
アンチハラスメントポリシーを用意しておく
純粋に技術の話を聞きに来たはずなのに、いざイベントが始まると技術とは無関係な部分で嫌な思いをしてしまった、ということもときどき起こるみたいです。
そういうことが起こらないようにアンチハラスメントポリシー(または行動規範、Code of Conduct)を用意しておきましょう。
TokyoGirls.rbのアンチハラスメントポリシーはCC BYライセンスで公開しているので、どなたでもこちらを自由に改変してアンチハラスメントポリシーを作成していただいて構いません。
blog.jnito.com
アンチハラスメントポリシーを用意したからといって、ハラスメント行為を100%防げるとは考えていませんが、それでも「運営者は何も言いません。みなさんの自由意志にすべてお任せします」とするよりも、その確率を減らせると思います。
また、「運営としてハラスメント行為は看過することはありませんよ」という意思を明確にすることで、「もし勉強会に行って嫌な思いをしたらどうしよう」と考えている人の心理的ハードルを下げる効果も期待できます。
参加アンケートを採る
多くのイベント告知サービスでは参加時にアンケートを集めることができます。
このとき、以下のような内容を聞いておくと良いかもしれません。
- プログラミングの経験年数は?
- 勉強会の参加回数は?
- 自称コミュ障ですか?
このアンケート結果は勉強会当日に利用します。
利用方法は後述します。
(オプション)女性専用枠を用意する
「勉強会に参加してみたいけど、女性がほとんどいなかったらどうしよう」と不安に思う女性の方も結構おられるようです。
イベントページで「女性の方も大歓迎です」と書くのもひとつの手ですが、端から見ると「大歓迎だからといって、他にも女性がたくさん来る保証はない」と思われてしまい、実はあまり効果がなかったりします。(経験者談)
そこで、TokyoGirls.rbでは女性専用枠と性別不問枠を用意しました。
こうすれば、他にも女性の参加者いることが可視化され、女性の心理的ハードルを下げることができます。
ただし、TokyoGirls.rbは「女性も参加しやすい(でも女性限定ではない)Ruby勉強会」がコンセプトだったので、こういうことがやりやすかった、という背景はあると思います。
世間一般の勉強会だと「なぜ女性専用枠?🤔」と思われそうなので、採用するのは少し難しいかもしれません。
イベント開催までの準備で
名札を用意する(できればTwitterアイコン付きで)
勉強会で参加者用の名札が用意されることは一般的だと思います。
名札がないと懇親会で相手をどう呼べばいいのか分からない(名前を聞いてもすぐ忘れてしまう)という問題が起きるので、最低限、相手の名前のわかる名札は用意しておいた方がよいでしょう。
さらに、名前だけでなく、TwitterアイコンやTwitterアカウントがわかる情報も名札に載せられると良いです。
TokyoGirls.rb Meetup vol.2では、名札に貼れるTwitterアイコンシールを用意しました。
今日は朝からばたばたしてしまったけど、トップバッターでの発表がんばります(名札にアイコン入ってて嬉しい!) #tokyogirlsrb pic.twitter.com/JKObhpBqXp
— ただあき (@tdakak) December 21, 2019
よろしくおねがいします! #tokyogirlsrb pic.twitter.com/UsDJVtFG37
— ほっしー (@55kong) December 21, 2019
ITエンジニアのTwitter使用率はかなり高いですし、Twitterアイコンを名札に載せておくことで「あ、このアイコン見たことあります!」と会話が生まれる可能性があります。
また、勉強会が終わったあともTwitterを見てるときに「あ、このTwitterアイコンはあの勉強会でしゃべった人だ!」と気づくことがあるかもしれません。
参加者の属性も名札で表現できると、さらにベター
あとは、参加者の属性を名札や名札の紐で表現できるとさらにベターです。
参加者の属性というのは、たとえば参加者に関する以下のような項目です。
- 一般参加者か、登壇者か、スタッフか、スポンサー関係者か
- 自称・初心者かどうか
TokyoGirls.rbでは参加者の属性は名札下部の配色(と"STAFF"のような文字)で表現していました。
ほかにも「自称・初心者さんには若葉マークを貼ってもらう」というようなことをしておくと、「あ、この人も私と同じ初心者さんなんだ」と安心して話しかけられるかもしれません。
どんな方法であれ、名札に載せた情報で「今、目の前にいる人が何者なのか、どんな属性の人なのか」を可視化できると、懇親会でお互いに話しかけやすくなると思います。
勉強会のオープニングで
経験の浅い人や初参加の人もたくさんいることを伝える
初心者さんや勉強会初参加の人は、「ここにいる人は全員、熟練のプログラマで、こんな超初心者は私だけかもしれない」「私以外はみんな過去に参加したことがある人で、知り合いが一人もいないのは私だけなのかもしれない」と不安に思っている可能性があります。
そこで、参加アンケートで集めたプログラミングの経験年数や勉強会の参加回数をオープニングでお知らせしましょう。
以下はTokyoGirls.rbで実際に使ったスライドです。
このように参加者全体の経験年数や参加回数を可視化できれば、初心者さんも「よかった、初心者は私だけじゃないんだ」と安心することができます。
アンチハラスメントポリシーについてあらためて説明する
アンチハラスメントポリシーは参加者全員が事前に読んでおくことが前提になりますが、まだ読んでない人や一度読んだものの、すっかり頭の中から抜け落ちてる人がいるかもしれません。
ですので、あらためてオープニングでも簡単に説明しておきましょう。
意図せず加害者になってしまうことを恐れる人もフォローする
アンチハラスメントポリシーの提示は「被害に遭うのが怖い」という人を安心させることができる一方で、「自分の何気ない発言で相手を傷付けてしまうかもしれない」と過剰に心配する参加者を生み出す恐れもあります。
主催者はそういう参加者をフォローしておくことも大事です。
TokyoGirls.rbでは以下のようなことをオープニングで伝えました。
- 過剰に心配しないでください。まずは「ちょっとした心がけ」だけで十分です
- もし、悪意なく誰かを傷つけてしまった場合、我々運営スタッフが最初からあなたを厳しく非難することはありません
- ハラスメントが起きたときは加害者も被害者もきっとショックを受けていると思うので、我々運営スタッフは双方の参加者を全力でサポート&フォローします
会場にいる運営スタッフを紹介する
オープニングでは会場にいる運営スタッフを紹介しておきましょう。
そして「何か困ったことがあればお近くのスタッフに何でも言ってね!!」と参加者のみなさんに伝えてください。
緊急連絡先がわかっているのとわかっていないのでは、参加者の安心感も大きく変わってくるはずです。
懇親会で
さて、いよいよ懇親会の始まりです。
いきなり「懇親会です!みなさん楽しくご歓談ください!」で始めてしまうのではなく、参加者の緊張をほぐし、お互いに話しかけやすくなる工夫を実践しましょう。
なお、TokyoGirls.rb Meetupでは懇親会用の飲食店に移動するのではなく、会場内で飲食物を提供するスタイルの懇親会にしています。
みんな自称・コミュ障であることを理解してもらう
僕が観測する限り、ITエンジニアの大半は「自称・コミュ障」です。
「あの人、いつもめっちゃ仲よさそうにいろんな人と話してるやん!」と思うような人でも、1対1で話してみると「いや〜、人と話すのは苦手なんですよねえ」とおっしゃる人が多かったりします。
かく言う僕も自称・コミュ障です。初対面の人と話すのはほんとに苦手です!!
・・・ということを知らない人も多いと思うので、懇親会が始まる前にそのことを参加者に伝えましょう。
TokyoGirls.rbでは「ぼっちが懇親会でするべき97のこと」というTogetterページからいくつかツイートを引用して紹介しました。
もし、参加アンケートで「あなたは自称・コミュ障ですか?」というアンケートを採っていれば、その結果をこのタイミングで発表するのも効果的だと思います。
(Yes/Noで答えるだけなので、事前アンケートなしでその場で挙手してもらう、とかでもいいかも?)
そして、「コミュ障なのはお互いさまだから、ぼっちの人を見かけたら、こんにちは😃と話しかけてあげてください」と、参加者のみなさんに伝えておきましょう。
最初にグループ分けをする(アンチボッチ・グルーピング)
大勢の人が集まっている中でいきなり「さあ、みなさんご歓談ください!」とするよりも、ある程度「最初に誰と話すか」を決めておいた方が最初の会話が生まれやすいと思います。
そこでTokyoGirls.rbでは「アンチボッチ・グルーピング」と題して、参加者をある条件でグループ分けし、最初はそのグループで話してもらうようにしています。
第1回ミートアップのグループ分けの条件は「あなたが使っているエディタは何?」でした。
第2回ミートアップのグループ分けの条件は「最初に買ったRubyの技術書は何?」でした。
もちろん、グループの人数が一発で均等に分かれることはないので、運営スタッフは「秀丸を一度でも使ったことがある人は、こちらのグループへ!」みたいな感じで、参加者をいい感じに誘導してあげてください。
飲食物を置いておくテーブルもグループの数に合わせて用意しておくと、グループ分けがスムーズに進みます。
なお、このグループ分けはあくまで「懇親会がスタートしたときのグループ分け」であって、最初から最後までそのグループから動くな、というわけではありません。
ですので、主催者は「ある程度話したらグループを移動しても大丈夫ですよ」と参加者に伝えておきましょう。
パックマンルールを実践してもらう
パックマンルールというのは、他の人があとから入りやすいように1人分のスペースを空けておいてもらうルールのことです。
できればこのルールも実践してもらうように、参加者のみなさんにお願いしておきましょう。
会話のテンプレートをスクリーンに映しておく
TokyoGirls.rbでは懇親会中に以下のような会話のテンプレートをスクリーン上でループ再生しています。
- そのTwitterアイコンは何ですか? or どこで撮ったんですか?
- 今日の勉強会で一番印象深かった発表は?
- 使ってるエディタは?
- よく行く勉強会はありますか?
- プログラミング歴はどれくらいですか?
- オススメの本は何ですか?
- 好きなgemは何ですか?
- Ruby以外で興味のある(or よく使う)言語やフレームワークは?
- エンジニアになったきっかけは?
- どんなお仕事をされていますか?
- 自分史上最大のバグを教えてください
- オススメのストレス解消法を教えてください
- 健康維持のために気を付けてることはありますか?
- 尊敬するITエンジニアや憧れのITエンジニアは誰ですか?
- 今日のイベントはどこで知りましたか?
- 会社に女性エンジニアは何人いますか?
もちろん、このテンプレートのとおりに会話する必要はありませんが、口下手な人はこういうテンプレートがあった方が助かるかもしれません。
運営スタッフがぼっちの人をフォローする
運営スタッフはぼっちの人をもし見かけたら、自分から話しかけに行って、うまく他のグループの中に誘導してあげてください。
ただし、TokyoGirls.rb Meetupでは、ここまでの様々な施策が功を奏したのか、ぼっちの人を見かける機会はかなり少なかったです。
イベント終了後に
開催後アンケートを採り、運営スタッフ間でふりかえりをする
イベントが終わったら参加者にアンケートの回答をお願いしましょう。
イベント全体の満足度や感想を集め、それらをインプットにして運営スタッフでふりかえりミーティングを開催してください。
ふりかえりはKPT方式(KPT=Keep/Problem/Try)で行うのがお勧めです。
良かった点はさらに良くできないか、悪かった点は次回でどう改善できるか、みんなでアイデアを出し合いましょう。
その他
無理せず、やれることだけをやる
ここまで様々な施策や工夫を紹介してきましたが、これらを全部実践しようとするとそれなりにコスト(金銭的にも・時間的にも)がかかります。
「すべての勉強会がこうあるべきだ!」などと言うつもりは決してありません。
無理することなく、勉強会の規模や性質、スタッフの人数等に応じて、主催者一人ひとりが「いい塩梅」を模索してください。
参考までにTokyoGirls.rb Meetup vol.2の規模を載せておきます。
- 一般参加者 68名(募集人数ベースでは83名)
- 登壇者 8名
- 企業スポンサー4社(無料招待した関係者=6名)
- 運営スタッフ 7名
・・・以上が安心して参加できる勉強会・懇親会のためにTokyoGirls.rb Meetupで実践した施策や工夫でした。
お役立ち情報:自由に再利用や改変ができるスライドを公開しています
他の技術コミュニティの主催者が参考にしたり、ご自身の勉強会で引用したりできるように、TokyoGirls.rb Meetup vol.2のオープニングや懇親会で使ったスライドをCC BYライセンスで公開しています。
必要に応じてご自由にお使いください。
TokyoGirls.rb Meetup vol.2 #tokyogirlsrb - Speaker Deck
また、Keynote形式のファイルもこちらからダウンロードできますので、スライドの内容を改変したい場合はこちらをお使いください。
まとめ
というわけで、このエントリではTokyoGirls.rb Meetup vol.2での取り組みを例に挙げながら、安心して参加できる勉強会・懇親会のために主催者ができることをいろいろと紹介してみました。
とはいえ、先ほども述べたとおり、別に全部の施策を無理に実践する必要はありません。
「これなら費用対効果が高そう」と思ったものをいくつかピックアップするだけでも良いと思います。
このエントリがIT技術者向けの勉強会や懇親会を主催している方の参考になれば幸いです😊
あわせて読みたい
TokyoGirls.rb Meetup vol.2の開催レポートです。
今回のエントリには書いていない、勉強会主催者向けの知見や情報も載っているので、こちらもあわせてどうぞ。
blog.jnito.com
今回のエントリでは「アンチボッチ・グルーピング」という取り組みを紹介しましたが、もともと「アンチボッチ」というキーワードが最初に登場したのは、2011年に開催されたRubyKaigiだったそうです。
その経緯についてはこちらの記事をご覧ください。
june29.jp